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「居なくたつて訴訟はいくらでもできらあね」
それに、茂子がこんな風にひよいと家を出て実家へ帰つたまゝ、十日も二十目ももどつて来ないなんてことは、別に珍らしいことでもなかつた。たゞ、この半年ばかりは落ちついていたのである。もう慣れつこになつている。そのうち又舞ひもどつて来るだらう。来なければ来ないで、それでもちつとも差支へはない。要するに、どうでもよかつた。居ない間が気楽といふものだつた。
「さうですつてね」
庄谷は自分よりは高い相手から見下されるのを避けるやうに少し遠のくと、房一の改まつた服装を胸から下にかけてぢろぢろと見た。
「よろしい。承知した」
胡坐をかいた道平は今膝小僧までまる出しにしていた。それも日に焦げている。
房一はふと自分に返つて訊いた。
と、房一は練吉の顔を見て思ひ出したらしく、
男は眼を閉ぢたまゝだつた。
相手が急に三人にふえたためか、柵の中の長身な男は一層興奮した。
広い家の中では盛子一人だつた。もうとつくに羽織袴も居間に出して置いたし、履物も足袋も揃へた。帰りさへすればすぐにも出かけられるのだ。だが、足音も聞えはしない。盛子はさつきから何度も玄関に出てみたり、それから裏口から外の小路に出て河原の方をすかし見たりした。
声をひそめて、富田が訊いた。
と房一が答へた。