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    「馬子まごにも衣裳つて云ふから――」と云つたほどである。

    「うん」

    「なあんだ、まだ訴訟してるのか」

    突然、練吉の顔には一種の生気が、何となくもう一人の練吉といつた風なものを思はせる疳の気配、子供染みた我儘さが顔にさし、あのひつきりのない目瞬またゝきが止んで、切れの長い目が眼鏡の奥でぢつと線を引いた。

    「うん、行くよ。――だが、夕方でいゝだらう」

    と、相手は慌ててその筒抜けな声を庫裡の居間に向けて放つた。

    房一はその晩留置されることを覚悟していたが、幸ひに取調べは簡単に済んで、夜ふけになつて神原喜作と共に自動車で帰つて来た。この二人が本署まで同行させられたことはあらゆる方面に同情をひき起した。そして翌日になると、出張所の側でも遺憾の意を表し事件は落着した。

    「え、何だつて、徒歩てくで通るかつて?」

    「そんなこと位は造作もない。おれにとつては小指の先の芸当だ」

    と、思はず房一の微笑に釣りこまれて、練吉は気がるな笑顔になつた。いつのまにか、かた苦しい「わたし」から「僕」といふ云ひ方になつたのも気づかないで。

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